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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)97号 判決

守口市日光町一七の三

原告

田路直行

右訴訟代理人弁護士

宇賀神直

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

被告

生野税務署長

鍋谷政憲

右指定代理人

小林敬

中村治

坂田行雄

畑健治

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告

1  被告が原告に対し昭和四六年七月一九日付でなした原告の昭和四三年ないし昭和四五年分の各所得税の更正処分および過少申告加算税賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

被告

主文と同旨

第二原告の請求の原因

一  原告は、水道下水道工事業を営むものであるが、昭和四三年ないし昭和四五年分の各事業所得につき、別表(一)の各確定申告欄記載のとおりの確定申告(白色)をしたところ、被告は、昭和四六年七月一九日右各確定申告に対し、同表各更正欄記載のとおりの更正処分および過少申告加算税賦課決定(以下、本件更正処分という)をなした。

二  その後の、本件更正処分に対する異議申立等裁決に至るまでの経緯は別表(一)記載のとおりである。

三  しかしながら、本件更正処分(ただし、裁決により一部取消されたのちのもの。以下同じ。)は不当な推計によって売上金額および所得金額を算出したものであり、違法である。

よって、申立記載のとおりの判決を求める。

第三被告の答弁

一  請求の原因一、二記載の事実は認める。

二  同三記載の事実は争う。

第四被告の主張

一  原告の本件各係争年分の課税標準たる各所得金額ならびにその根拠となる売上金額(昭和四五年分については水洗便所工事、上水道工事、渡辺鉄工株式会社関係工事)、売上原価、一般経費(昭和四五年分については申請料およびその他)、特別経費(雇人費、支払手数料、外注費、支払名義料、家賃、支払利子)は、別表(二)の各被告主張額欄記載のとおりである。

なお、昭和四五年分の売上金額に対する売上原価、一般経費、雇人費、支払手数料、外注費の各比率は、それぞれ三一・九二%、一一・九三%、九・〇九%、一二・五八%、一九・五七%(以上、小数点四位未満切り上げ)となるところ、昭和四三年分、昭和四四年分の各売上原価を基礎にして、これらに右各比率(ただし、昭和四四年分の売上原価比率は三六・〇七%)を適用して、前記各数値を算出した(昭和四四年分の雇人費は原告の記帳額による。)。昭和四四年分の売上原価比率として原告に有利な三六・〇七%を採用した理由は、昭和四四年には工事量の急増があり、補完工事が多発して収入の割には手間がかかったとみられるので、

〈省略〉

としたのである(昭和四五年分売上単価四万八、二〇七円は、原告記帳にかかる同年分の水洗便所工事一二七一件、売上金額六、一二七万一、二六一円より算出)。

二  したがって、右認定額の範囲内でなされた本件更正処分には違法な点は存しない。

第五原告の答弁

被告の主張に対する原告の主張は別表(二)の各原告主張額欄記載のとおりである。

第六証拠関係

原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二号証、第四号証の一ないし二四九、第五号証の一ないし一五六、一五八ないし一六九、第六号証の一ないし八、第七号証の一ないし三六、第八号証

2  証人藤原忠次、原告本人

3  乙第二二号証の一ないし三〇の成立は知らないが、その余の乙号証の成立は認める。

被告

1  乙第一ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証、第二二号証の一ないし三〇、第二三ないし第二八号証、第二九号証の一、二

2  証人松浦幸子

3  甲第一号証の一ないし三、第二号証、第七号証の一ないし三六の成立(第七号証については原本の存在も)は認める。第四号証の一ないし二四九、第八号証の成立は知らない。第五号証の一ないし一五六、一五八ないし一六九、第六号証の一ないし八については原本の存在は認めるが、成立は知らない。

理由

一  請求の原因一、二記載の事実については当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の基礎となった被告主張にかかる別表(二)の各被告主張額欄記載の金額に関して、昭和四三年分の売上原価、家賃、支払利子、昭和四四年分の売上原価、雇人費、家賃、支払利子、昭和四五年分の売上金額のうち渡辺鉄工株式会社関係工事分、売上原価、一般経費のうち申請料を除くその余の部分、特別経費のうち支払名義料を除くその余の部分については当事者間に争いがない。

三  昭和四五年分の事業所得金額(総所得金額)について

(一)  売上金額について

1  水洗便所工事売上金額

成立に争いがない甲第二号証(裁決書謄本)、乙第一五号証(原告の昭和四五年分水洗便所工事売上帳)、第二一号証(契約書)、第二三ないし第二七号証(質問てん末書)、証人松浦幸子の証言により真正に成立したと認められる乙第二二号証の一ないし三〇(請求書一覧表)、証人松浦幸子の証言および原告本人尋問の結果の一部によれば、

(1) 原告は、昭和四五年分の水洗便所工事売上金額として、売上帳に一、二七一件合計六、一二七万一、二六一円を記帳していること、

(2) 原告は、大阪市の水洗便所工事施工業者に指定されている渡辺工業所こと渡辺三喜雄の名義を借りて、同人に対し一定の名義料を支払って水道や下水道の工事を行なっていたこと、

(3) 原告は、前記(1)の一、二七一件の工事の外に、渡辺三喜雄の名義を借りて三一三件の大阪市の助成金等のついた水洗便所工事(売上金額一、六四七万八〇五一円)をなし、昭和四五年二月三日から同年一〇月一日までの間に各施主に対しこれらの工事代金を請求していたこと、

(4) 原告は、水洗便所工事を施行して完了すれば、直ちに施主に対し工事代金を請求していたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する証人藤原忠次の証言および原告本人尋問の結果部分は乙第二三ないし第二七号証ならびに証人松浦幸子の証言に照らして採用できず、他に右認定を左右するにたりる証拠はない。

右認定の事実によれば、(1)および(3)の売上金額の合計七、七七四万九、三一二円が昭和四五年分の水洗便所工事売上金額となる。

2  上水道工事売上金額

成立に争いがない乙第一七号証(請求書)、第一九号証(照会および回答書)、証人松浦幸子の証言によれば、昭和四五年一一月項原告が渡辺三喜雄の名義を借りて工事代金二八三万八、三三〇円の上水道工事をなしたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の事実によれば、右上水道工事代金二八三万八、三三〇円は原告の昭和四五年分の売上金額に加算されることになる。

3  そうすると、当事者間に争いがない渡辺鉄工株式会社関係工事分売上金額三〇万〇、八〇〇円に、右認定の1および2の売上金額を合計した八、〇八八万八、四四二円が原告の昭和四五年分の売上金額となる。

(二)  一般経費について

一般経費のうちの申請料についてみると、成立に争いがない乙第一号証(大阪市下水道条例)、第二九号証の一、二(照会および回答書)によれば、水洗便所工事をする際に、原告は一件当り大阪市に対し一〇四〇円の手数料を、大阪市上下水道工事業協同組合に対し三〇〇円の申請手数料および工事賦金を納付しなければならなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、原告が昭和四五年中になしたとみられる水洗便所工事が一、五八四件であることは前叙のとおりであるから、昭和四五年分の申請料(右手数料、工事賦金の合計)総額は二一二万二、五六〇円となる。そして一般経費のうちの申請料を除くその余の部分が七五二万一、七三一円であることについては当事者間に争いがないから、昭和四五年分の一般経費は九六四万四、二九一円となる。

(三)  特別経費について

特別経費のうちの支払名義料についてみると、前掲乙第一九号証、成立に争いがない乙第一八号証(照会および回答書)によれば、原告が渡辺三喜雄に対し昭和四五年中に支払った前記名義料が四七二万四、四一六円であったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、特別経費のうち、支払名義料を除くその余の部分が別表(二)の昭和四五年分の被告主張額欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがないから、昭和四五年分の特別経費は、三、八八六万九、八八七円となる。

(四)  以上によれば、原告の昭和四五年分の事業所得金額(総所得金額)は六五五万六、三八四円となる。

四  これまでに求められた昭和四五年分の売上金額に対する売上原価、一般経費、雇人費、支払手数料、外注費の各比率は、それぞれ三一・九二%、一一・九三%、一二・五八%、一九・五七%となる。

五  昭和四三年分の事業所得金額(総所得金額)について

当事者間に争いがない昭和四三年分の売上原価二、一八六万五、三一一円を基にし、これに前記四で求められた売上原価比率を適用して売上金額を算出し、右売上金額にその余の前記各比率を順次適用して計算すると、売上金額、一般経費、雇人費、支払手数料、外注費はそれぞれ別表(二)の昭和四三年分の被告主張額欄記載のとおりとなり、また前掲乙第一八号証によれば、支払名義料は一四三万六、〇〇〇円であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

そうすると、特別経費のうち、家賃および支払利子が別表(二)の昭和四三年分の被告主張額欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがないから、原告の昭和四三年分の事業所得金額(総所得金額)は八六一万四、二〇四円となる。

六  昭和四四年分の事業所得金額(総所得金額)について

当事者間に争いがない昭和四四年分の売上原価七、二九八万六、六五二円を基に、これに前記五で示したと同じ方法で、前記四の各比率(ただし、売上原価の比率については原告に有利な三六・〇七%。被告が説明するその根拠は適正なものと認める。)を適用して計算すると、売上金額、一般経費、支払手数料、外注費はそれぞれ別表(二)の昭和四四年分の被告主張額欄記載のとおりとなり、また前掲乙第一八号証によれば、支払名義料は七三二万三、〇〇〇円であることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

そうすると、特別経費のうちの雇人費、家賃および支払利子が別表(二)の昭和四四年分の被告主張額欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがないから、原告の昭和四四年分の事業所得金額(総所得金額)は二、五三二万五、二三〇円となる。

七  これまでに認定した昭和四三年ないし昭和四五年分の各総所得金額から前掲甲第二号証により認められる各所得控除金額(昭和四三年分四〇万四、六二〇円、昭和四四年分五七万五、二二〇円、昭和四五年分六三万五、二二〇円)を控除し、これらと当事者間に争いがない昭和四三年ないし昭和四五年分の確定申告にかかる各税額(別表(一)記載)を基礎に本件係争各年分の各税額および過少申告加算税額を算出するといずれも、本件更正処分額を超えることは明らかである。

したがって、右認定にかかる各税額および過少申告加算税額の範囲内でなされた本件更正処分には何ら違法な点は存しないことになる。

八  原告は、「被告は、本件更正処分の根拠として、原告の計上する昭和四五年中の売上金額の外に、売上計上もれの工事売上分があるとして、乙第一六号証(大阪市下水道工事業協同組合作成の「水洗便所設備工事申請受付状況」)を基礎に主張し、立証しようとしていたところ、昭和五二年三月二日の第一六回口頭弁論期日において、同日予定されていた被告申請の証人山下功の尋問を放棄し、第一回口頭弁論期日より三年以上も経過した昭和五二年四月二七日の第一七回口頭弁論期日において、それまでの主張を撤回し、あらたに「原告の各施主に対する工事代金請求書一覧表」(乙第二二号証の一ないし三〇)に基づいて算出した売上計上もれの工事売上分があると主張し、乙第二二号証の一ないし三〇を提出し、その後これに副う他の証拠(乙第二三ないし第二八号証)を提出するに至った。しかしながら、被告の右主張の変更ならびに証拠の提出は、重大な過失による時機に遅れた防禦方法の提出であり、訴訟の完結を遅延せしめるものとして却下されるべきである。」旨申立てた。

よって、判断するに、原告の右主張のとおりの経緯により、被告の主張の変更、証拠の提出がなされているが、被告の右主張立証の変更追加がなされた第一七回口頭弁論期日当時は原告申請にかかる証人及び原告本人の尋問は未了の状態であり、また被告側証人も全く調べられていなかったのであるから、直ちに弁論を終結できる段階ではなかったといわなければならない。したがって、被告が新たな主張を提出したことによって、右主張に副う乙第二二号証の一ないし三〇の成立に関して新たな証拠調が必要になるとしても、反面、撤回された主張についての証拠調は不要になるのであり、かつ新たな証拠調にしても、前記の未了証拠調と併行して行ないうる関係にあるものといえるし、また乙第二三ないし第二八号証についてはその成立に争いがない書証であるから、これら被告の主張立証の変更追加によって訴訟の完結を遅延せしめるものということはできない。

よって、原告の右申立は理由がないから却下する。

九  以上の次第で、原告の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 裁判官 市川正巳)

別表(一)

(一) 昭和四三年分

〈省略〉

(二) 昭和四四年分

〈省略〉

(三) 昭和四五年分

〈省略〉

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

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